雨は止んでも、また降ってくる

アラサー既婚・子なし女の雑記

命なんてよくわからない

   午後十時を過ぎても夫がまだ帰ってこないと、少し憂鬱になる。時々疲れて帰ってくると、ピリピリした空気が伝わってくるからだ。そういう日は、全身が力んでいる自分に気がつく。それは夫が悪いわけでもないし、かといって私が帰らせない職場に腹を立ててもどうしようもない。そしてまた一つ無理な理由が積み重なる。

 

   土日も出勤だとなると、また無理な理由が積み重なる。長期出張となると、また無理な理由が積み重なる。何この労働環境。とある本に書いてあったこと、「仕事は人のためにあるもので、仕事のために人があるのではない。」私はそれは正しいと思ったけど、現実、日本人は仕事に支配されているパターンが圧倒的に多そうだ。

   そして、私はさっきから無理な理由ばかりを集めているわけだけど、何が無理かって出産・育児をすること。そうやって無理な理由を集めて自分を正当化させたいのだと思う。そもそも、夫の労働環境がどうであろうと、私が子供を欲しいと思っていない上に、心身ともに弱いのでお話はそれで終了なんだけど、考えないわけにはいかない。それは夫が子供を欲しがっていることや、周囲の人が子供を持ち始めたりしていることなど、どうしても触発される機会は舞い込んでくる。でも大抵、考え込んだときにいいことなんてひとつも思い浮かばない。

   私は自分の意に反して子供を作ろうとしたことがある。''夫のために''それだけで踏み切って妊娠した。そしたら死にたくなった。死にたくなってベランダで泣いた翌日、心拍が止まっていることが判明した。全然悲しくなかった。そして私はここでやっと、子供は人のためだけに産むものではないし、私は必要以上に自分を犠牲にしていたことも分かったし、誰も幸せにならないことをしようとしていたのだと思い知った。どうしてこうなる前に想像ができなかったのだろう。自分の頭が悪すぎて嫌になる。それからしばらく''子供が欲しい''と思える人が羨ましくもなった。でも今はどうでもよくなった。今までの私があって、今の私が産みたくないって思ってるんだからそれで仕方ない。

   「子供が欲しいのなら他の人と結婚してもいいよ」私は最近すごく冷静に夫にそう言えるようになった。そしたら夫は「無理して産まなくていいから、一緒に居たい」と言う。もしかして、私はそれが聞きたいだけなのかもしれない。それが真意じゃなくとも、今だけの気持ちだとしても、私はそれだけで十分な気がしている。自分の意思が尊重されて、大切にされていると思えたから。そんなことを言ってくれる人がいた、その事実だけで私は嬉しい。そして同時にすごく苦しい。存在すらしていない子供の命のためにこんなに心を惑わされるなんて、たまに馬鹿馬鹿しくなる。

   私はできることなら真っ当に生きたいし、夫と別れたりなんてしたくない。でもたまに、本当に全てから逃げたくなる。側にいるのが私じゃなければ、きっと夫は他の誰かに愛してると言っているかもしれないのだから。その枠に私がいるからダメなんだ。その枠に、自分のことを大切にしていて、子供が欲しいと思っている普通の女の人がいれば良かったのに。だから私なんていなければよかったと思う。

   そうやって自分を粗末に扱うこともまだ止められないときがある。私なんて死ねばいいと思う。これは夫に対してすごく失礼なことだとも思う。私と一緒に生きてくれているのに、私を生かしてくれているのに、それなのに私はまだ死にたいと強く感じてしまう。なんでだろう。いつまでこんなことを繰り返すんだろう。解決しない矛盾に苦しんでも不毛なだけだということは分かっているのに。

   私は新しい命なんていらない。そんなことより、亡くなった母に会いたい。死後10年以上経って初めて強くそう思う。それは、今まで知らず知らずのうちに母の気持ちばかりを考えて自分の気持ちに蓋をしていたことと、自分が親になるような年齢になったことを意識させられたからかもしれない。最近になってやっと母親が自死を選んだという事実を真っ向から受け入れて、自分の気持ちを表現できるようになった気がする。私は母にこの世に置いてけぼりにされた気分ですごく不安だし、私が尊敬していた母が命を絶たなきゃいけないような世の中なんて怖すぎるし、私は母に見捨てられたような気分ですごく悲しい。身近で尊敬していた人がこんな死に方するから私はそのときから何を指標に生きていったらいいのかもわからなくなった。もちろん、誰だって不安感や孤独感を感じるものだけど、母が自死たことでその感情が増幅したことは間違いない。この歳で親のせいにして、親離れができない子供みたいなこと言ってる。そう考えて今までそんな風に悲観しちゃダメだと思っていた。でも別に悪いことじゃない。私は親離れできない子供。どんな年齢でも、母親が自殺して正気保てるほうが狂ってる。

f:id:escapismphoto:20170704121810j:plain

   命なんてよくわからない。なぜ存在すらしない命に惑わされるのか。存在している私がなぜ自分の命を大切にできないのか。母のような素敵な人がなぜ自らの命を、存在を、絶つ選択をしなければなかったのか。